第3章 後継者育成

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下記にテープ起こし原稿を掲載します。話の中で省略された言葉を多少補足してあります。

1.子供たちに伝えたいこと

Q. 現代の子供たちはなかなか伝統文化に触れる機会がありません。子供たちが先生の作品を見て、先生に近づきたいと思ったときに、日頃どういったことに気をつけたらよいでしょうか?

井上萬二
その人の作品を見て感動する、しないは別として、戦前の家庭生活と戦後の家庭生活というのは、文化的に相当違っている。まず、社会環境、家庭環境によってこういう文化に興味を持つかどうか決まってくる。
現代の若い奥様方が、家庭でまな板の上で、庖丁を握って料理をして、その料理を小皿に入れようか、何に入れようかと盛り付けをして、ちゃんとしたテーブルの上に配分して、子供たちに食べなさい、という古来の日本の伝統が変わってきた。
ショッピングで買ってきたおかずを、パックの蓋を開けたままで、お椀に飯を盛っただけですぐ食べなさいという。そういうイージーな社会環境が今日多いでしょう。
買ってきたから悪いのではなくて、これは小鉢に、これは中皿に、これは何の皿に、というように食と器の文化というものをよく考えて、ちゃんとお膳の上に、テーブルの上ではなくて、お盆の上に盛り付けをして、子供さんたちに食べなさいという。これは日本の本当の古来の食文化です。
そういうところから文化がすでに消えているんですね。だから、子供たちもただ食
べさえすればいいじゃないか、と。こういう食器を見ても、お母さんがこういう食器で盛ってくれたらいいな、とそういう文化というものが自然と必要にしているから、家庭においても社会においても、そういう文化、トラディショナル文化というものは継承しなければならない。それが戦後消えている。
それから住まいも同じように、マンションというものは鍵1本で非常に便利な住まいで、外の草むしりもしなくていいけれども、家庭には床の間一つもない。
じゃあ、書の稽古をやって掛け軸を作って、自分の家の床の間に掛け軸をかけた。じゃあ、そこに架台でも置いて、一つの壷でも飾ろうかという床の間の様式もない現代の家族の住まいでしょ。
昔はちゃんと床の間があり、神仏があって、そういう本当の住まいというものがあった。それが消滅しているから、自然と伝統文化というものは消えていく。そういうところから本当の古来の日本のいいところを再発見しなければならないし、それをなくさないようにしないといけない。
着物も同じ、伝統文化ですね。結婚式があろうと何があろうと、面倒くさい、洋服のほうかいいやと結婚式に行く。和服というものは着るのに面倒くさいし、むずかしい。でも和服を着た後というのは、日本人には品格が出てくるんですけど、そういうものも自然となくしている。焼き物ではない染色の世界でも衰えているのと同じように、自然とそういう古来の文化が絶えているというのが影響するんじゃないかと思います。そういうものを再発見することが必要なんじゃないかと思うんです。