第3章 後継者育成

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 下記にテープ起こし原稿を掲載します。話の中で省略された言葉を多少補足してあります。

3.現代と昔の環境の違い

Q 今の子供たちに足りないことと、逆に、今の子供たちが持っている良さもあると思いますが、その点についてどう思われますか?

井上萬二
今の子供たちに限らず若い人たちで、こういうものに励もうという人たちは、センスは鋭いセンスを持っています。でも、長い年月にわたった技術の修練をしようという姿勢に欠けるから、よい工芸が生み出されないのではないかと。高いセンスは持っているけれど、それを生み出すために、創り出す技術を学ぼうという意識が欠けているんじゃないかと思います。それはやはり社会環境ですね。
現代の若い人たちが、大学で4年間楽しい生活を送っているけれど、大学というのは現代においても浅く広く学んでくるんですね。
でも、職場というのは、広くよりも深く追求するところで、そこに違いで出てくるんです。
大学という専門の学校で学んだものを社会に出てから、それを広く究明していかなくてはいけないものです。
それから、4年も5年も無給というのは、今日の社会ではぜったいありえない。私たちは修行を受けるためには、親が飯だけは食わせるから、給与はいらないと。給与を受けたら、そこの企業のために奉仕しなくちゃいけないけど、無給だったら勉強の場さえ与えてくれたら、いくらでも勉強できる。そういう点で、戦前の思想と戦後の思想が変わってきていますね。
昔のそういう感覚を持った人が、「うちの子供をぜひ弟子にしてください。数年間は給与いらないから、技術さえちゃんと教えてもらったら、それが最高ですから」という親もいらっしゃるんです。
でも、労働基準法がそれを許さない。弟子というのはありえない、この社会は。いくら弟子でも、週休2日は与えているか、給与は与えているか、という社会でしょう。1時間でも長く勉強しろよといったら、残業手当を出せという社会です。
文化庁やその関係機関は、時間にとらわれず後継者育成をやってください、という。同じ政府の機関でも、どちらがうんぬんというわけではないですけど、人権も尊重しなくてはいけない。尊重するためには、どの程度で指導するか。
だから、教える人というのは犠牲的精神を持たないとだめなんですよ。若い人が来たら、給与を与えながら一所懸命技術を教えてやろう、という心がないと、伝統工芸の継承というのは成り立っていかないんです。