井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室  上ノ山明彦著

  『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室 (新潮文庫)』  井上ひさし

 偉大な作家であった井上ひさし氏が亡くなってしまった。氏の功績は膨 大で、簡単には語り尽くせいないものがある。
 今回は井上ひさしが作家志望の入門者のために書いた本をご紹介したい。
 本書はものを書く上で、もっとも本質的なこと、根本的に大切なことに ついて書かれた本である。題名はどう付ける、から始まって、日本語の特 質、文体についてまで、非常にわかりやすく解説してくれている。
 しかも、実際に教室で習う生徒からの質問に答え、実例をあげながら文 章を添削指導しているのでおもしろい。自分の体験談もある。宮城県一ノ 関市にいた頃、井上氏は中学生。ある本屋で国語の辞書を万引きしようと したところをおばあさんに見つかってしまった。彼女は井上氏を店の裏手 に連れていき、薪割りをさせた。それが終わると、おばあさんはその辞書 を差し出して言った。「働けば、こうして買えるのよ」。薪割りの労賃か ら辞書代を差し引いた残りまでくれた。井上氏はまっとうに生きることの 意味をおばあさんに教わった。
 このおばあさんもすばらしいが、有名作家になってから、こういう話を 素直に語れた井上ひさし氏もすごいと思う。文章とはハートである、とい うことを言いたかったのだろう。
 井上ひさし氏にはいろいろと批判があることも知っているが、才能あふ れる偉大な作家であったことは間違いない。ぜひ読んでいただきたい。
★参考文献 『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室 (新潮文庫)