上ノ山明彦著

スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編 から スティーブン・キング

 ときには突然、読むべき本が目の前に現れることがある。ある日、古本屋から買ったまま棚に積んであった本がポトリと床に落ちてきた。スティーブン・キングの『スタンド・バイ・ミー』がそれだ。今は特に読みたい本ではなかったが、とりあえずカバンに入れた。何気なく読み始めたら夢中になった。
 やはりキングはすごい作家である。作品の中にさりげなく名文句が散りばめられている。 「人がものを書くたった一つの理由は、過去を理解し、死すべき運命に対し覚悟を決めるためなのだ。だからこそ、作品中の動詞は過去形が使われている。・・・・・この世で有効な芸術形式は、宗教と、ものを書くこと、この2つしかないのだ、と」(『スタンド・バイ・ミー』、新潮文庫、234ページ)。
「ことばは有害なものなのだ。・・・・愛というのは甘ったるい詩ではない。愛には牙がある。噛みつくのだ。その傷は決して癒されない。無言であること、ことばを組み合わせたりしないことが、そういう愛の傷をふさぐ役目を果たす。逆にジョークがその役を果たすこともある。そういう傷がふさがったら、それと同時にことばも死ぬ。わたしが言うのだから、信じてくれていい。わたしはことばで生計を立てている。だから、それがよくわかるのだ」(『スタンド・バイ・ミー』、新潮文庫、289ページ)。
 ああ、なんという核心を突いた言葉だろう。