上ノ山明彦

夫婦公論 (集英社文庫)』(小池真理子、藤田宜永著)

 小池 真理子、 藤田宜永は夫婦で作家である。 二人とも直木賞作である。藤田宜永のほうがだいぶ遅れて受賞したときは、いろいろと話題になった。世間は「きっと肩身が狭い思いをしたことだろう」と、勝手に藤田宜永に同情したものだった。
 そういう二人のリレーエッセイをまとめた本がある。 『夫婦公論 (集英社文庫) 』 がそれである。
  それぞれが男と女の立場から、あるいは夫と妻の立場から「激論」を闘わせる。それが爆笑を誘うくらいおもしろい。
 私はこの本ではじめて、小池真理子が語る女性の発想や受け止め方というものがよくわかった。 「なんと、ここまで男と女の考え方は違うのか」と。
 例えば、お立ち台に上りたいという女性の心理は、ほとんどの男性には理解できないだろう。もしおわかりになる男性がいたとしたら、その人はきっと女性にモテモテであるに違いない。「私の気持ちをこんなにわかってくれるなんて」と。この本で、小池真理子が自分もお立ち台に上りたかったと書いていたのには驚かされた。「小池真理子よ、おまえもか!」というふうに。その理由を読んだら、なるほどと妙に納得させられた。
 ほかにもまだまだある。こういうことがある。夫の友人が訪ねて来たときには、妻も話に加わってワキアイアイと会話ができる。
 ところが、妻の友人が訪ねてきたときには、夫がいると話が弾まない。むしろいないほうが彼女たちに歓迎される。なぜ?
 男性諸氏にはそういう経験がないだろうか?藤田宜永もはじめその理由がわからなかった。私も同じ経験がある。小池真理子の説明でようやくその謎が解決したしだいである。
 ほかにもたくさんある。それについて書き出したら、1冊の本になるくらいの量になってしまう。かくも男と女の溝は深いのだ。
 なお、私は男性なので、議論についてはほとんど藤田宜永の味方である。

 彼らのエッセイが読者の共感を得た秘訣は次の点にあると私は考えている。
●自分の論旨を強く主張するが、相手も読者も傷つけない
●本音で語る。自分の強さも弱さも語る。
●相手の良い点は素直にほめる。相手の弱点を突いたときは、後でちゃんとフォローする
●激怒したときも、そのまま書く。あとで釈明する。
●相手側の反論も想定して書く
●気取ったり自慢したりしない。そうしたときは弁解も添え、読者を不快にしない。

 一方的に相手の論旨を批判するだけならば、もはやそれはエッセイではなく、論文か政治文書になってしまう。読者を楽しませながらも、自分の考えを読者にしっかり示すというエッセイの書き方として非常に参考になる本だ。一度読んでみていただきたい。