上ノ山明彦

ゲゲゲの女房」 武良布枝

 水木しげるの妻、武良布枝(むらぬのえ)さんが書いた本である。
  まず、売れない貸本作家時代の極貧生活の話には驚かされる。私は苦労話や貧乏話は好きである。私自身、そういう話には引けを取らないつもりではあるが、水木しげるの極貧度は、もう「天上人」のレベルだ。ここでは説明しないので、ぜひ本書を読んでいただきたい。
  そういう生活の中で、彼は妖怪漫画と妖怪研究一筋に打ち込んできたのである。
  布枝さんはそういう水木しげるの姿を見ながら苦楽を共にしてきた。この本には生々しい「証言」がたくさん書かれている。陰険な税務署員に、ありもしない隠し収入を追及され、怒った水木しげるが数十センチの質札を叩きつけた話。赤子のミルク代も買えなかった話。「糟糠の妻」(注)という言葉があるが、まさにそれである。
(注)「糟糠の妻」
「[後漢書宋弘伝] 貧乏な時から連れ添って苦労を共にしてきた妻。「―は堂より下さず」(糟糠の妻は夫の立身出世の後にも家から追い出してはならない)」<広辞苑より>

  もっとも感銘を受けたのはどこか?と聞かれれば、水木しげるが一心に仕事に打ち込んできた姿勢であると、私は答えたい。極貧生活に巻き込まれた妻子は災難だったかもしれないが、自分の才能を信じて、そこまで打ち込める人は極めて少ない。心底敬服した。
  布枝さんの姿勢にも感銘を受けた。見合い結婚した後、水木しげるの妖怪漫画に打ち込む姿を見て心から尊敬し、子供のような性格を愛し、子供を愛し、彼を支えつづけた。そういうことは、誰にでもできるものではない。
  本書の帯に、水木しげるがこう記している。
  ―家内は「生まれてきたから生きている」というような人間です。それはスゴイことだと水木さんは思う。―

  ほんとうにそれはとてつもなくスゴイことなんだと思う。ご一読あれ!

 『ゲゲゲの女房』、 武良布枝著、実業之日本社発行

 水木しげる本人が書いた自伝:
のんのんばあとオレ (講談社漫画文庫)
 昔は伝説や恐い話をしてくれるおばあちゃんがそばにいたもの。水木しげるもそういうおばあちゃんのもとで成長した。
のんのんばあとオレ (ちくま文庫)
 上の話を文章で読みたいならばこちら。
ねぼけ人生 (ちくま文庫)
 小学校時代のエピソードから戦争時代、貸本漫画家時代の話が載っている。

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