上ノ山明彦


笑いの現場―ひょうきん族前夜からM‐1まで ラサール石井

 ビートたけし(北野武)が、 どうして一番おもしろく、誰も言い負かすことができない王者の風格を持っ ているのかについて、その理由をこう分析している。
「それはたけしさんが、誰よりも「腹をくくって」生きているからではな いだろうか。
 彼はいつも捨て身で、切り込み隊長として最前線で戦い、必ず勝利して 生還してきた歴戦の勇士だ。どんな戦場に行っても必ず一番前に立ち、弾 が飛んでくるのを避けようともせずに敵地に向かって前進していく」。
 なるほどと思わせる分析と表現だ。北野武という人の大きさを思わせる ある「伝説」がある。彼は街中で入ったトイレの便器が汚いと、その場で 掃除するというのだ。その真偽はいま一つはっきりしていないが、実際に 見たという人や本人がインタビューでちらりと語っていることもあり、ど うやら本当のことらしい。これは無名時代の話ではなく、大成後の話なの である。北野武という人物は懐が広い。学ぶべきところが多い。ラサール 石井に、ぜひ「たけし伝」を書いてもらいたい。
 本書は1994年12月に刊行された本を加筆・訂正し、角川新書で発行され たものである。著者はコント赤信号のラサール石井である。
 とにかくラサール石井の分析力が卓越している。「お笑い」の分析とい うのは世相の分析である。時代背景、文化の分析でもある。時代の気分が 一つの形として「お笑い」になる。そのことをしっかり著者はとらえ、読 者に示してくれる。
 背景がわかったとして、次に演者(お笑い芸人)が具体的にどういうお 笑いでそれを結実させているのか?それについても、著者は冷静に分析し ている。それに加えて、芸人そのものの個性の部分についても分析を怠ら ない。時代背景とネタと芸人の三者がうまく溶け合ったはじめて、 世間にブームを巻き起こすお笑いが生まれるのである。「お笑い芸人列伝」 の章の「ビートたけし」の話は目が覚める思いがすることだろう。
 本書を読みながら、小説の批評と相通ずるところがたくさんあって、い ろいろと勉強になった。そして面白かった。ラサールさん、やっぱりあな たは頭がいい! 

 ラサール石井著 『笑いの現場―ひょうきん族前夜からM‐1まで (角川SSC新書)


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