上ノ山明彦
             『司馬遼太郎が考えたこと〈1〉エッセイ1953.10~1961.10』  司馬遼太郎

 このシリーズは文庫版で第19巻まである。司馬遼太郎の小説も人気だが、 彼の真骨頂は『街道をゆく』をはじめとするエッセイにあると私は考えて いる。私は気分が落ち込んだとき、本書を読み返すことにしている。する と、自分の視野の狭さがばかばかしくなり、もっとも大切なことに気づき そのために残りの人生を捧げようという気になってくる。
 現代は先が見えない時代になった。司馬遼太郎は20年も前に、こういう 時代について持つべき見方考え方を述べている。
「世界は不確定な時代に入っています。拠るべき基準がないという時代で す。といって、私は厭世的にこんなことを申し上げているのではなく、じ つに愉快な−自分たち個々が裸眼で自分なりの世界を見ることができる、 あるいは見ねばならぬという−時代になっているという、心から微笑した い気分で、このことを申しあげているのです。
 きっと将来、あたらしい世界把握の方法が、そういう裸眼(イデオロギ ―に覆われることのない眼)のむれのなかから生まれてくると思うのです が、そういうことへの準備のために私どもただの人間が心得るべき基本的 なことを考えておこうと思うのです」(『司馬遼太郎が考えたこと 14』、 66頁)。
 いろいろな人生の指針が含まれている本である。

★参考文献 『司馬遼太郎が考えたこと〈1〉エッセイ1953.10~1961.10 (新潮文庫)

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