芸術家インタビュー 第3回  取材・執筆 上ノ山明彦

陶芸家 河村喜史氏

土と遊び、土と対話し、土の良さを引き出す
 2007年12月1日鎌倉にて、陶芸家・河村喜史先生にインタビューを行ってきました。すばらしい芸術家にお話しを伺うということは、本当に心を洗われる、あるいは目を覚まさせられるという思いがします。今回もそういうインタビューでした。
 お話をしてくださったのは陶芸家・河村喜史先生です。先祖代々続く陶芸家の名門で、祖父の代から鎌倉にある其中窯(きちゅうよう)で創作活動を行っています。
 陶芸に関しては、私はまったくの素人でしたので、取材前には緊張しました。知識を得るために、まず喜史先生の祖父・河村喜太朗氏の名著『やきものをつくる―原料・本焼・楽焼(附・陶磁器原料分布一覧ほか) (新技法シリーズ 3)』(美術出版社発行)を購入し、勉強を開始しました。

河村喜史氏
  この本には製作工程のすべてが詳しく書いてありました。粘土作り、ろくろ、手ひねり、釉薬、焼成に至る工程がよくわかりました。
 同時に、その奥深さも想像できました。一生かかっても窮め尽くせないものだと思いました。まして年取ってからでは、そのいったんに触れるだけで終わってしまいそうだなと思いました。
 技法だけでなく、喜太郎氏の陶芸にかける想いがヒシヒシと伝わってくる本です。特に縄文文化の意味、その価値についての解説は読み応えがあります。
 ちなみに、インタビューで喜史先生に直接お伺いしたのですが、この本に写っている「孫」というのは、喜史先生の小学生のときの写真でした。
 その次に私が調べたのは。もちろんインターネット。検索していくうちに、古書店で『河村又次郎 作陶展』という本をみつけました。喜史先生の父・又次郎氏の個展での作品集です。さっそく入手して拝見しました。後日、インタビューが終わってから『又次郎』という本を喜史先生より贈呈していただきました。非常にすばらしい内容の本なのですが、これが自費出版と聞いたときは驚きました。この本は入手困難ですが、又次郎氏もまた偉大な陶芸家であったことがよくわかりました。

 実はインタビューの数週間前に、先生のご自宅にある登り窯の火入れが行われるというので、一般見学者としてその様子を拝見していました。
 現場の緊張感はピークにありました。何物も寄せ付けない先生の張りつめた表情に、見学者一同も遠くから息をひそめて見つめていました。黙々と薪を投げ入れ、炎を見つめる先生の体全体を通して、すべてが語られているように思えました。
 こうして素人の私にも、陶器と登り窯の意味がおぼろげながらわかってきました。もっと実体験していけば、さらに奥の深い世界をのぞくことができるのでしょう。わずかな時間でしたが、貴重な経験でした。
 取材したビデオの中で、火入れの様子や完成した作品を垣間見ることができます。貴重な映像です。
 また、インタビューの中では、いろいろな話が出てきます。喜史先生は「鎌倉てらこや」の活動に協力していらっしゃいます。「土と遊ぼう」というテーマで、子供たちの創造力を育てようという趣旨です。ご自宅の中にある仕事場に子供たちと親を集め、陶芸の初歩から指導しています。そういう活動についての想いも語っていただきました。
 陶芸の奥深さやご自分の作品づくりについてもお話しをうかがいました。直接本人から話を聞けるのですから、視聴者の皆様にとっては貴重な経験になるでしょう。
 新聞・雑誌等のインタビューでは、どうしても記者・編集者のフィルターを通してしか話を聞くことができません。ビデオ・インタビューの良さは、生の声で話を聞けるところにあります。普段は違う分野で活動している視聴者の方々にとっては、勉強になることが盛りだくさんです。ぜひそれをくみ取ってください。
 <河村喜史氏インタビュー・ビデオ 全5話>
「土と遊ぼう」 子供たちの可能性を育てるための活動「土と遊ぼう」という教室について話をうかがった。
土と対話しながら創る 作品作りは、土の良さを引き出すこと。そのためには土と対話しながら作ること。それについて話をうかがった。
土の良さを引き出す 「どうしたら土がそうなってくれるのか」と考えながら作っていると河村先生は語る。それについて話をうかがった。
最近のご自身の作品作りについて 2008年1月の個展に向けた作品作りについて話をうかがった。
作陶展 作品紹介 2010年2月17-23日、日本橋高島屋で開催された個展の模様(表示に少し時間がかかる場合があります)。
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<河村喜史氏の略歴>
 昭和34年  愛知県豊田市に生まれる
 昭和41年  祖父喜太郎急逝のため両親とともに鎌倉に移る
 昭和61年  日本大学芸術学部美術学科卒業
    以降  父又次郎の元で修業
 平成12年  横浜高島屋 初個展
 同   年  横浜「ギャラリー音楽通り」にてグループ展
 平成13年  大阪「ギャラリー斗々匠」にてグループ展
 平成14年  横浜高島屋 個展
 同   年  鎌倉大仏建立750年記念品を制作
 平成16年  横浜高島屋 個展
  同   年  萩「ギャラリー草芥」にてグループ展
 平成17年  加古川「ギャラリーテリアム」にてグループ展
 平成18年  横浜高島屋 個展
 平成20年   横浜高島屋 個展

ホームページ 「其中窯」 http://www.kichuyo.com
 
 今年(2008年)に入り、1月23日〜29日まで横浜高島屋で河村喜史先生の個展が開催されるというので、私も見に行ってきました。陶器を見る目が少し養われた私は、会場で河村先生の作品を見て、またまた勉強になりました。土、釉薬、登り窯に作家の技術と魂が融合して出来上がったものが、これらの作品なんだなと感激しました。「窯変」というのは窯の火によって陶器に変化が生じることです。それが器に深い味わいをもたらしています。そういうこともわかるようになりました。

 ところで、あくまでも私が勉強して知った範囲で恐縮ですが、登り窯について紹介してみたいと思います。
  焼く道具としては、今では便利な電気釜というものがあります。温度管理が安定していて、失敗なく焼くことができます。一般の陶芸教室ではほとんどそれが使われています。登り窯で焼くとどう違うのでしょうか?私なりに調べてみました。
 まず、温度管理がたいへんです。薪には松が使われます。火を付けて、ただ薪をくべればいいというわけではありません。窯の中に温度差ができれば、陶器の焼き方にムラができてしまいます。窯の中の温度がほぼ均等に上昇していくように、薪が均等に並ぶように投入する必要があるのです。
 温度が何度くらいか、陶器の焼き加減はどういう状態か、それを炎の色や陶器の焼けた色で判断していかなければなりません。長年蓄積された経験と勘だけが頼りです。まさに熟練の技です。
 一定の時間、一定の温度を維持し、最終的に摂氏1300度まで上昇させます。その後、ゆっくりと時間をかけて冷ましていきます。
 温度管理が失敗すると、作品の色が冴えないものとなり、台無しになってしまいます。
 登り窯で焼くと、仕上がりの状態が予測できない部分があります。炎が陶器を燃やす中で、その表面をなでたり、吹き付けたりします。それが陶器に独特の変化をもたらすのです。それは二度と再現できない変化です。それが作品に独特の風味をもたらします。
 さらに、薪が燃える中で灰が舞い上がり、陶器に降り注ぎます。それが釉薬と混ざり合い、灰釉という変化をもたらします。これも二度と再現できない変化です。これも作品に独特の風味をもたらします。
 登り窯の中で繰り広げられる自然現象が、人の思惑を超えて究極の自然美を見せてくれるのです。
 こうした過程を簡潔に表現すると、登り窯で生み出される陶器は、作家と窯と炎が共演して作り上げる最高の芸術作品ということになるでしょう。

 私は陶芸という芸術の奥深さに触れる機会を持つことができ、非常に感激しました。芸術とは本当に作家の魂を表現したものだと思いました。河村喜史先生に心より感謝いたします。

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