今またブームの藤沢周平作品を紐解く
多くの時代小説家の中から、誰を推薦するかと問われれば、私は即座に藤沢周平と答えたい。 これほど多彩な時代小説を高いレベルで書き上げ、大勢の読者に愛されている作家は、そうはいない。 それに加えて藤沢周平の文体は新しくわかりやすい。現代の若い世代でも十分に読むことができる。それが最大の理由である。 藤沢周平という作家は、映画「武士の一分」や一昔前の「たそがれ清兵衛」、大河ドラマ「蝉しぐれ」などで広く知られている。 時代小説好きや評論家はもちろん、作家にも周平ファンは多い。私も本HPで何度かこの作家のことについて書いている。 では、この作家の魅力はどこにあるのか?それを簡潔に表現するのはむずかしいが、私はあえてそれにチャレンジしてみたい。 まず、藤沢周平の作品群を主に5つのカテゴリーに分けてみよう。下記の表に代表作を整理してみたので参照していただきたい。 まず自伝・エッセイがあるが、これは別扱いとしよう。作品群は主に市井(人情、股旅)物、捕り物、剣客・武家物、歴史物に分けることができる。 市井物は、文庫の帯にも記されているように、「人間の愛しさと哀しさを見つめる著者の優しい眼」が、作品の基調に流れていることが、最大の魅力である。 それに加えて、滑らかに流れ、かつわかりやすい文体がある。昔の日本の美しい風景描写がある。登場人物の細やかな心理描写がある。 読後感は人生の切なさ、はかなさ、空しさを感じながらも、絶望感に浸ることはない。どこかに「人間も捨てたもんじゃないな」という希望が残る。 この味わいは藤沢周平ならではのものだ。 捕り物については、藤沢周平自身が暇さえあれば外国のミステリーを片っ端から読んでいたというくらい大のミステリー好きであった。 そのせいか、作家本人が書きながら謎解きを楽しんでいるような雰囲気がある。 周平捕り物の魅力は、謎解きのしっかりした筋立てに加え、主人公の個性、活劇、事件に絡む登場人物たちの人情が各所にちりばめられているところであると私は思う。 すばらしいの一言に尽きる。 剣客物については、剣劇(斬り合い)に迫力がある。目の前で斬り合いが行われているかのように、手に汗を握ることになる。 勝負に挑むまでの修行、かけひきなどの場面も緊張感を高めてくれる。 武家物については、武士の掟に縛られ残酷な運命に翻弄されながらも、武士の誇りと意地に生きる清廉な生き様を見せてくれる。 ときにはストーリーのベースに純愛を置き、現代小説では描くことができないすがすがしさを実感させてくれる。 歴史物には「密謀」、「回天の門」などがあるが、他の作品と比べると物足りなさを感じているので、先に読む物としてはあまりお勧めできない。 下記に藤沢周平の作品を整理して掲載した。読者として、または書き手として参考にしていただきたい。 <参考文献> ●自伝・エッセイ編
●市井・渡世物編
●捕物編
●剣客・武家物編
|