上ノ山明彦

『日本語の文法を考える』、大野晋、岩波新書

 むずかしい本である。しかし、おもしろい本である。何気なく使っている日本語には、こういう深い意味があったのかとあらためて思い知らされる。
 よく紹介される例がある。
 「昔々、あるところにおじいさんとおばあさん住んでいました。ある日、おじいさん山へ芝刈に、おばあさん川に洗濯に行きました」
 なぜ初めはおじいさんとおばあさんに「が」が付き、2番めでは「は」が付くのか?
 このほかにもいろいろな例が出てくる。「が」ひとつにもこんなにさまざまな意味が含まれていたのかと考えさせられる。

 私は作家の日本語文法論や小説手法論を読むのが好きであるが、大野晋は学者である。この本は岩波新書である。長いこと書棚に眠っていたのであるが、ある日突然私の前に現れた。読みなさいと言っているかのように。前に読んだのはいつのことか覚えていない。
 あらためて読みなおすと、一つ一つの言葉がぐいぐいと頭の中に入ってくる。以前は私の理解力が足りなかっただけだということがわかった。
 日本語って、こんなに奥が深くおもしろいのである。
 作家志望者必読の本として推薦したい。

 『日本語の文法を考える (岩波新書 黄版 53) 』、大野晋著