あなたに伝えたい本

 タイトル  ワーキングプア
 著者  NHKスペシャル『ワーキングプア』取材班
 発行年月  2007年6月
 出版社、定価  ポプラ社  1200円+税
 キーワード  ノンフィクション, 仕事 社会問題 労働者 賃金 社会的貧困 労働環境
 

 本書のサブタイトルに「日本を蝕む病」とあるように、日本の企業が従業員を道具として扱っていると、自ずと日本経済全体が没落していくことになるでしょう。企業の多くは、景気が悪くなればリストラや派遣切りやパート・アルバイトの解雇を行っています。ひどいところになると、内定取り消しや「新人切り」にも手を染めています。これは従業員の人生を台無しにする犯罪行為に近い所業だといえます。
  ほんの30年くらいまで、日本ではかなり形骸化されていたとはいえ「日本的経営」を守ってきました。それは定年まで働ける会社、従業員を大切にする会社、年功序列という言葉で表現されていました。その経営方法には弊害もありましたが、少なくとも現在のように従業員を「経営調整のための道具」として扱う考え方はありませんでした。それがわずかの間に、ひどいところまで悪化してしまったわけです。
 本書は2006年に日本全国で取材を行い、衝撃的な事実を紹介しています。ワーキングプアとは、まじめに働かないから発生する問題ではありません。毎日コツコツと一生懸命に働いている人、職を失い必死に職を探している人に発生している問題なのです。若者たちは「働かない」のではなく、「働きたくても、働く場所がない」のです。
 ここで紹介されている事実は驚くべきものばかりです。例えば、全給与所得者の5人に1人が年収200万円以下というデータがあります。独身なら何とかなりますが、家族を持っている人には厳しすぎる収入です。
 「仕事、労働とは人間の尊厳、誇りであり、その誇りはきちんと守られなければならない」(本書、9ページ)という言葉に、この本のテーマが集約されています。一人でも多くの人に読んでほしい本です。

次の本も非常に参考になります。
門倉 貴史著 『ワーキングプア いくら働いても報われない時代が来る (宝島社新書)』 。

(評者: 上ノ山明彦)


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