氏家幹人 『不義密通 禁じられた恋の江戸』
著者は江戸時代をテーマにした本をいく
つも書いている。
本書は歴史的資料を詳細に調べ、実際にどんな事件が起きたのか、どん
なやりとりがあり、どんな人間模様があったのかまで、できるかぎり真相
に迫ろうとした本である。
江戸時代は身分差別が厳しく、刑罰も厳しかった。人妻が夫以外の男と
関係を持つと、死かそれに相当する厳しい罰を受けた。それにも関わらず
驚くほど多数の不倫が行われていたと資料が物語っている。れっきとした
武家の妻と奉公人の恋、大きな商店の女将と若い奉公人との恋。現代から
見れば非常に厳格な暮らしをしていたと思われる武家や商家でさえ、不倫
の例は驚くほどたくさんあったのである。
時代が変わっても、人間の本質は変わらない。制度や慣習やお金で燃え
上がる恋を消し去ることはできない。命をかけて恋を貫くという気持ちは、
現代人よりもはるかに強く純粋だったのかもしれない。
本書は道徳論を振りかざした書物ではない。不倫の二人とそれを取り巻
く人々が何を考え、どう行動したのか、事の顛末を探ろうとした本である。
決して興味本位でもなく煽情的でもない。恋という人間の持つ特質につい
て考えさせてくれる優れた本である。
氏家幹人著 『不義密通―禁じられた恋の江戸 (講談社選書メチエ)
』、講談社刊
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