第1章 井上萬二氏の略歴と作品

 2012年11月3日、筆者は、有田焼の伝統を継承しつつも、白磁で独自の世界を築いた人間国宝・井上萬二氏の窯を訪れた。多忙の中、テレビクルーの一ヶ月にわたる取材が終わったばかりだという。 見るからに、かなり疲れておられるご様子。そんな中でも、我々のインタビューに快く応じていただいた。話の内容は、修業時代の玄人世喜び、技を高めることの意味、日常生活と趣味など、多方面に及んだ。
萬二氏の圧倒されるような作品群はもとより、氏の飾らない性格、おおらかさに、筆者はたちどころに魅了されてしまった。
 各章で掲載されている動画は、その時のインタビューのビデオである。映像と肉声で、直に井上萬二氏の世界に触れていただきたい。テープ起こしの原稿も添えておいたので、参考にしてください。

1. 井上萬二氏略歴

井上萬二氏の信条は、「加飾に一切頼らず、絹のような白い釉薬をまとっただけの白磁は造形こそが命」。

昭和4年(1929)、佐賀県有田市有田町生まれ。
昭和19年(1944)、15歳で海軍飛行予科練習生として入隊。
昭和20年(1945)、復員後、陶芸の道に入る。酒井田柿右衛門工場勤務 酒井田柿右衛門、奥川忠右衛門に師事。
昭和33年(1958)、29歳のとき、県立有田窯業試験場の技官に就任。白磁製作技法をはじめ陶芸の土、釉薬、技法、産業、歴史などを広範に研究。
昭和34年(1959)、有田陶磁器品評会会長賞受賞。以後数々の賞を受賞。 昭和44年(1969)、ペンシルバニア州立大学で5ヶ月間陶芸を指導。
平成7年(1996)、人間国宝認定。

<参考資料>

平成20年に文化庁が井上萬二氏を取材し製作したビデオがあります。非常によくまとめられていますので、ご紹介します。

文化庁1

文化庁2

文化庁3