実は今回のインタビューは、昔お世話になったあるデザイナーの方に寿三郎先生を紹介していただいたのです。その方とも仕事上のお付き合いはほとんどなくなっています。それなのに私のためにいろいろと配慮してくださいました。そういう人生の出会いにも、深く感謝しております。
寿三郎先生は雑誌や著書で拝見すると、なんとなく厳しいイメージがあります。ところが、映像を見ていただければすぐわかりますが、非常におおらかで温かい方です。私の質問にやさしくていねいに答えていただきました。。そのときの模様はビデオでごらんください。今回もまた先生のメッセージが視聴者の皆様に正しく伝わるように、冗長にならないように注意を払いながら編集したつもりです。非常に勉強になる話ばかりです。ぜひ生の映像でごらんください。
なお、インタビュー完了日から、収録データの編集に長い時間がかかってしまいました。自分で編集していますので、すべては私に原因があります。寿三郎先生のような深い話になると、自分の頭の中で先生のお話を消化し視聴者に伝えることができるような心のゆとりができるまで時間がかかります。とはいえ、いつもそうなのですから、すべては私の浅学のせいなのです。貴重な時間を拝借していただいたのに、本当に申し訳なく想っております。
寿三郎先生は、今年(2008年)11月、広島の宮島で「平家物語絵巻」展を開催される予定です。
これまで全国で「源氏絵巻縁起」展を開催してこられました。ごらんになった方も多いと思います。先生は「人の手で動かさなくても、それ自身がドラマであるような人形をつくる」と言われています。その集大成の一つが「源氏絵巻縁起」でした。人形を見ているだけで物語が流れてくるような構成です。それを今度は平家物語で表現しようということのようです。
寿三郎先生の作品集『
辻村ジュサブロー人形作品集』(文化出版局)の表紙には、般若心経の経文が刻まれています。著書、『
辻村寿三郎―人形曼陀羅 (人間の記録)』(日本図書センター)を読んでも、そこには深い無常観が反映されています。今度の「平家物語絵巻」も「諸行無常」がテーマになるそうです。
寿三郎先生曰く、「今の作家たちは源氏物語の解釈がぜんぜんできていないと思います。このお話はいつの世のことでございましょう、と書いているじゃないですか。そう問いかけているのに、あれは平安時代のことを書いたものとしか解釈していないもの。人間が生きている限り、これはいつの世も繰り返されるんですよ。と紫式部は言っているんです。そこの解読ができていません」。
たしかにそうかもしれません。
「紫式部は泣きながら書いたと思います。人間というのは飾り立てたいという気持ちがあるから、こんなに美しく飾り立てた光源氏がこんなに悪いことをしているんですよ。あなたこれで許せますか?と言っているのが源氏物語なんです。それをまあ、光源氏が女性の理想の男性だなんて、よく言いますよ。ああいう人と結婚したらエライ目に合いますよ(笑い)」。
「平家物語絵巻」展は、平家を祀っている宮島の大聖院で開催されるそうです。「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり」という無常観がテーマになりますす。しかし、「これまでの平家物語の解釈とはまったく違う私なりの解釈でつくっています」と寿三郎先生。これは楽しみです。先生には霊感も備わっていると聞きます。平家の魂が寿三郎先生の霊感と共鳴を始めたら、それは何かすごいことになりそうな予感がします。
インタビューを終えて振り返ってみると、ウェブで公開するとはいえ、寿三郎先生から1対1でいろいろなことを教えていただき、私が一番幸せな機会を与えていただいたと思います。先生ならびにジュサブロー館のスタッフの皆様、ご紹介くださったデザイナーのA先生、本当にありがとうございました。