芸術家インタビュー 第2回  取材・執筆 上ノ山明彦

作家 早乙女貢 先生

使命感をもって歴史の真実を書く
(注 2008年12月23日、作家・早乙女貢先生がご逝去されました。偉大な作家の突然の訃報に驚くとともに、深い悲しみを覚えます。謹んで哀悼の意を表します。このインタビューは生前に行われたものです)

2007年9月14日鎌倉にて、作家・早乙女貢先生にインタビューを行ってきました。
早乙女先生は硬派の歴史・時代小説家というイメージが強いですが、非常におおらかで気さくな方でした。面識のない私が突然取材を申し込んだにも関わらず快諾していただいたばかりか、豊富な資料を送っていただきました。先生の懐の深さには、最初から感激しました。
当日の話の内容も非常に興味深いものばかりで、予定を超えて2時間にわたるインタビューとなりました。そのときの模様はビデオでごらんください。早乙女先生のメッセージが視聴者の皆様に正しく伝わるように、そして冗長にならないように注意を払いながら編集したつもりです。
現代の日本人がいかに大切なものを失っているか、何を思い出さなければならないのか、それについて熱く語っていただきました。早乙女貢先生ご自身が、作家として何を考えながら歴史小説を書いてきたのか、歴史の真実とは何か、についても語っていただきました。
非常に勉強になる話ばかりです。ぜひ生の映像でごらんください。


早乙女貢 先生
 ビデオの中でご紹介できなかった話の中で、読売新聞で連載した当時の苦労談があります。
 その年1976の3月のこと。当初は7月から連載開始予定だった。その前にクイーンエリザベス二世号の地中海クルーズ(前年1975は太平洋上のQEUで週刊文春の連載執筆)に旅立つことになっていた。
 ところが、前に連載していた作家が突然亡くなってしまった。それで急遽繰り上げとなった。それも原稿完成までたった1週間の猶予しかない。大急ぎで当面の原稿を仕上げ、旅行に旅立った。
  新聞の連載だから、クイーンエリザベスの中でも原稿を書き続けた。毎日、東京の担当者から衛星中継で電話がかかってくる。当時FAXはないので、午前中に原稿を書き、港港の郵便局から国際郵便で発送する。午後から観光に出かけるという毎日だった。
 そういう苦労話があります。そのときの連載小説は新選組の「原田左之助」でした。連載新聞小説というプレッシャーの中で遊びもこなすというその才能とバイタリティにはただ敬服です。
 早乙女貢先生は、雑誌「歴史読本」で31年間の連載中、休んだのがたった1回という驚くべき記録を残しています。
 今回のインタビューの時点から数えると、「この50年間、一度も病院に行ったことがなく検診したことがない」ということでした。やはり早乙女先生は不死身の作家でした。そればかりか「どこも悪くないんだな。下痢したこともない。頭も腹も痛くなったこともない。目も耳も悪くない」。ビデオの中でその話が出てきます。本当にびっくりしました。
 作家とは寿命を縮める職業。早乙女先生は500冊以上の著書があります。そのほか雑誌の連載、講演をこなす多忙な作家です。そういう生活の中で体のどこも悪くないというのは、むしろそのほうが「異常体質」なのではないかと思われるくらいです。それは冗談ですが、小説を書くことがまったく苦にならないくらい天賦の才に恵まれた大作家なのだなということを実感しました。

 ビデオではもっとおもしろい話を聞くことができます。
 早乙女先生の代表作である『会津士魂』は、1970年に執筆を開始し、1989年に全13巻が完成しました。これには18年間かかっています。さらに、続編を書き始め、2001年に8巻が完成し、全21巻が完結しています。延べ30年間に及ぶ大著となりました。
 ところが資料によると、続編として敗戦から昭和までの話を書くということでした。さっそくこれについて聞いてみたところ、本当の話でした。
 「私はあと50年生きるつもりだから、いつ終わるかわからないけど、ぜったい書き上げるよ」との力強い言葉。
 皆さん、早乙女先生の年齢をごぞんじでしょうか?1926年生まれの81歳なのです。ということは130歳まで書きつづけるということなのです。先生のエネルギーたるや、もうただただ敬服するばかりです。早乙女先生ならば歴史に残る偉業を達成できそうです。期待しましょう。

  早乙女貢氏インタビュー・ビデオ 全6話
     不死身の作家  日本を憂う  謙虚さ  忍者小説  歴史の真実   会津士魂

 ★MPEG形式。タイトルをクリックし、保存するか実行してください。このビデオはPodcastで配信するものと同じ内容です。

<早乙女貢氏の受賞歴>
1969(昭和43)年 第60回直木賞、「僑人の檻」
1989(平成元年) 第23回吉川英治文学賞、「会津士魂」
<主な作品>
鬼の骨
おれは伊賀者
奇兵隊の叛乱
北条早雲(全5巻)
悪霊―松永弾正久秀
会津士魂
竜馬を斬った男
おけい (上)(下)
新選組列伝
士道遙かなり
 

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