上山明彦

『夜の紙風船』 阿刀田高

 最近、阿刀田高を研究しているので、著作もできるかぎりたくさん読むようにしています。
 彼のエッセイに『夜の紙風船』(中央公論社)があります。「仕事の周辺」の章では、阿刀田高は自分がどういうふうにアイデアをひねって一つの作品に仕上げているか、具体的に紹介しています。よいアイデアを思いつくことが一番大切ですが、あまりよいものでなくても、周りの要素でよい作品に仕上げることもできます。そのへんの苦労話は作家志望者の勉強になります。
 「作家の経済学」の章では、いっけん優雅に見える作家の経済面にスポットを当て、いかに作家の仕事と生活が大変か、数字をあげて訴えています。いや、そんな大げさなことではありません。ユーモアを加えながら、年収1200万円稼ぐ人が、ようやくサラリーマンで年収600万円の人と同じ生活水準ですよ、と説明してくれます。
 加えて、1200万円以上稼ぐには、原稿を1日何枚書かなければならないか?1年に何枚書くことができるか?そこから逆算すると、1枚いくらまでなら採算に合うか?といった切実な問題についても細かく計算しています。
 この数字を見て、「やっぱりサラリーマンのほうがいい」と思ったら、そのまま勤められることをお勧めします。
 ここで取り上げている数字は18年くらい前の数字なのですが、現在でも基本的な構造は変わらないのではないかと思います。
 本書では、阿刀田高がどんなきっかけでプロ作家になったかについても、簡単に触れています。作家志望者にとっては、それも大いに参考になると思います。
 ただし、紀伊国屋書店サイトで検索してみたところ、入手できないと表示されました。絶版なのかもしれません。古本屋で探してください。
 (2005.1.31)