飯嶋和一 推薦図書リスト
私の尊敬する作家の一人に、飯嶋和一がいる。寡作の作家で、5〜6
年かけて1つの歴史長編を書き上げるという人である。作品の時代考証、
取材にかけた労力は作品を読めばすぐに想像できる。精細な人物描写、心
理描写、心象風景描写、時代背景の描写は非の打ち所がない。ストーリー
の展開も、いったん読み始めるととどまることがなく引きずり込まれてし
まう。
飯嶋和一の文体は、セリフと人物描写で展開する場面が少なく、大部分
を地の文で語っている。これはロシア文学のトルストイを彷彿とさせる。
おそらく意識してこういう文体を取っているのだと思うが、セリフの多い
現代の作品の中ではかえって際だって見える。決して古いというのではな
く、本格的な文体を基礎に新しい感性で文章表現を構築しているのである。
作品の中から滲み出てくる彼の人生観にも心を打たれる。
寡作であるがために、まだまだ幅広い層に知られてはいないが、目の肥
えた読者やプロの間では高い評価を受けている作家である。私も飯嶋和一
という作家は司馬遼太郎、津本陽、宮部みゆき等と同レベルのすばら
しい作家であると考えている。
粗製濫造の現代の出版界の中で、「ものを書く」というのはこういうこ
となんだ、と思い知らせてくれる作家である。
興味がいた方は、アマゾンコムや他のサイトで、彼の作品を検索してい
ただきたい。お薦めは『黄金旅風』『始祖鳥記』『雷電本紀』。
最後に、飯嶋和一がインタビューでなぜ書くかについて問われ、こう答
えている。「書かずにはいられない思いというか、書くことによってしか
癒されない思いの深さというようなものなんです」。本物の作家は皆こう
なのである。
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