上ノ山明彦

飯嶋和一 推薦図書リスト

 私の尊敬する作家の一人に、飯嶋和一がいる。寡作の作家で、5〜6 年かけて1つの歴史長編を書き上げるという人である。作品の時代考証、 取材にかけた労力は作品を読めばすぐに想像できる。精細な人物描写、心 理描写、心象風景描写、時代背景の描写は非の打ち所がない。ストーリー の展開も、いったん読み始めるととどまることがなく引きずり込まれてし まう。
 飯嶋和一の文体は、セリフと人物描写で展開する場面が少なく、大部分 を地の文で語っている。これはロシア文学のトルストイを彷彿とさせる。 おそらく意識してこういう文体を取っているのだと思うが、セリフの多い 現代の作品の中ではかえって際だって見える。決して古いというのではな く、本格的な文体を基礎に新しい感性で文章表現を構築しているのである。
 作品の中から滲み出てくる彼の人生観にも心を打たれる。
 寡作であるがために、まだまだ幅広い層に知られてはいないが、目の肥 えた読者やプロの間では高い評価を受けている作家である。私も飯嶋和一 という作家は司馬遼太郎、津本陽、宮部みゆき等と同レベルのすばら しい作家であると考えている。
 粗製濫造の現代の出版界の中で、「ものを書く」というのはこういうこ となんだ、と思い知らせてくれる作家である。
 興味がいた方は、アマゾンコムや他のサイトで、彼の作品を検索してい ただきたい。お薦めは『黄金旅風』『始祖鳥記』『雷電本紀』。
 最後に、飯嶋和一がインタビューでなぜ書くかについて問われ、こう答 えている。「書かずにはいられない思いというか、書くことによってしか 癒されない思いの深さというようなものなんです」。本物の作家は皆こう なのである。

書籍タイトル (順不同) 出版社 概要(主に出版社のデータより抜粋)
黄金旅風 (小学館文庫) 小学館

江戸寛永年間、栄華を誇った海外貿易都市・長崎に二人の大馬鹿者が生まれた。「金屋町の放蕩息子」「平戸町の悪童」と並び称されたこの二人こそ、後に史上 最大の朱印船貿易家と呼ばれた末次平左衛門と、その親友、内町火消組惣頭・平尾才介だった。代官であった平左衛門の父・末次平蔵の死をきっかけに、新たな 内外の脅威が長崎を襲い始める。そのとき、卓越した政治感覚と強靱な正義感を持つかつての「大馬鹿者」二人が立ち上がった

始祖鳥記 (小学館文庫) 小学館 空前の災厄続きに、人心が絶望に打ちひしがれた暗黒の江戸天明期、大空を飛ぶことに己のすべてを賭けた男がいた。その“鳥人”幸吉の生きざまに人々は奮い 立ち、腐りきった公儀の悪政に敢然と立ち向かった?。ただ自らを貫くために空を飛び、飛ぶために生きた稀代の天才の一生を、綿密な考証をもとに鮮烈に描い た、これまた稀代の歴史巨編である。数多くの新聞・雑誌で紹介され、最大級の評価と賛辞を集めた傑作中の傑作の文庫化。
雷電本紀 (小学館文庫) 小学館 史上最強の相撲人・雷電を描いた傑作歴史巨編
異常気象、凶作、飢餓、疫病の蔓延と、厄災ばかりがうち続いた江戸天明期、後世まで語り継がれる一人の力士が彗星のごとく現れた。巨人のような体躯と野獣 のような闘志で豪快に相手を投げ倒していくこの男に、抑圧され続けてきた民衆は未来への希望の光を見た。実在の伝説的相撲取り「雷電」の一生を、緻密な時 代考証を踏まえドラマチックに描いて、飯嶋和一の名を世に知らしめた大傑作歴史巨編の文庫化!