古くて新しい”時代小説”の楽しみ方
一口に「時代小説」と言っても、中身は多彩である。テレビの時代劇によく出てくる「捕物帳」や「チャンバラ」だけが時代小説ではない。自分に合った楽しみ方ができるところが時代小説のよさの一つでもある。その点について話を進めよう。 武士道に焦点を合わせた作品は、人間の生きる意味を追求する「純文学」に通ずるものがある。実際、そういう観点から「純文学作家」が時代小説を書くという例はたくさんある。士農工商という身分制度があり、かつ封建的な家族制度の下では、恋愛も自由ではなかった。不倫は死罪であった。そういう時代には数々の悲恋や純愛があったはずだ。その時代の人々は現代人のように「すれて」いなかったであろうから、より純粋な形で恋愛が成就したりしなかったりしたことだろう。そういうところに焦点を当てると、現代小説よりももっと深い恋物語が書けるのではないだろうか? 武士道というよりは、剣士同士の戦いに焦点を当てたものが剣士物である。いわゆるチャンバラで斬り合うところやその前後の緊張感が魅力である。現代小説でいえば、アクション物やハードボイルド物に似ているだろう。 武士ではなく町人に焦点を当てたものが、市井物(人情話)である。商人や職人の日々の生活の中で起きる出来事や事件、そこに絡む人間同士の愛憎劇が中心となる。たとえば藤沢周平の作品はこのジャンルで非常に高く評価されている。実際に読んでみるとわかっていただけるが、読後に何か暖かい感情が心の中からわき上がってくるものだ。 捕物と多少似てはいるが、それとは異色のミステリー風作品もある。事件が発生するのだが、犯人を追う主役が商人や職人だったり、怪奇現象や超常現象の要素を取り入れた作品もある。時代小説も書き方によっては、怪奇小説やホラー小説にもなりうるのである。 時代小説はSF小説と合体することもできる。たとえば現代人がタイムトラベルによって江戸時代に入り込み奇想天外の体験をするという話は、すでにいくつかの作品で描かれている。 こうして考えてみると、どこかに自分にぴったり合った時代小説があるということがわかっていただけるだろう。もしも既存の作品の中に、自分の考える切り口を持った作品が存在しなかったら、そのときはあなた自身が時代小説を書くことを考えていただきたいと思う。 時代小説は時代背景、つまりどういう社会制度があり、どこに住み、何を着、何を食べ、何を使い、どういう仕事があり、どういう作業を行い、どういう人間関係であったか、などなどがわからないと書き上げることができない。そこが現代小説と決定的に違い難しいところである。そのサポートは、このコーナーや「インターネットもの書き塾」の新コースでおいおい実行していくつもりなのでお待ちいただきたい。 さて、すでに刊行されている時代小説の数は膨大である。どんな作家がいて、どういう作品が自分に合うのかわからない人のほうが多いのではないだろうか。そういう人はまず多数の有名作家の作品を収録した短編集を読むのがよいと思う。下記の表に、私が推薦する本を紹介した。これを一通り読めば、作家とその雰囲気がわかり、自分に合う作家や作品がわかるはずだ。その中で特に気に入った作家がいたら、その人だけの本を買って徹底的に読んでみるのもよい。 そういう楽しみ方をする中で、作家の視点や感性、文体、時代背景などがわかってくるはずである。 そうこうしているうちに、あなたは「自分でも書いてみたい」と思われるかもしれない。そのときの話は次回から順を追って進めるのでお楽しみに。 <参考文献>
<お知らせ> インターネットもの書き塾では、2007年度中に徹底指導の「時代小説コース」を開講する予定です。現在教材製作中で、開講時期は未定です。 受講をご希望される方は、進行状況を随時お知らせしますので、事務局までご連絡ください(なおこれは受講予約ではありません)。 インターネットもの書き塾事務局 information@shuppanjin.com |