ジャーナリストだった著者が、突然病気で倒れます。膠原病と診断されますが、治療方法に疑問を持った著者は、自ら回復方法を研究します。その一つが”笑い”による自然治癒力の向上でした。自分の体を実験材料にしながら記録を取って行きます。その過程が本書の柱となっています。
私が本書を推薦する理由は、それだけではありません。本書では笑いだけでなく、音楽の効用も説いています。ジャーナリストである著者は、シュバイツアー博士やチェロ奏者のカザルスを取材したときの体験談を披露します。年老いて、歩くのもままならぬヨボヨボのおじいさんであったカザルスは、毎朝起きると、ピアノでバッハを弾くのが日課でした。彼がピアノの前に座ると、別人の背が伸び、指に活気がよみがえり、表情が生気に満ちあふれ出すのでした。彼の指先が生み出すバッハのメロディは、天上界にいるかのように厳かで美しいものでした。
シュバイツアー博士の場合も同様です。アフリカで医療事業を展開していた博士もすでに老齢で、相変わらず苦難の事業は続いていました。彼の家には音程も確かでないボロボロのピアノがあるだけでした。夜、仕事を終えた博士は、それでバッハを弾くのが日課でした。博士がそのパイプオルガンを弾き出すと、まるで別の楽器のように美しいバロックを奏でるのでした。演奏している博士の体も精気を取り戻し、翌日の激務に立ち向かう力がみなぎっていくのです。
人間の持つ自然治癒力を高める方法は、いろいろあると思います。本書では笑いと音楽の効用が印象に残りました。
(評者: 上ノ山明彦)